「大野、もう少し愛想よくできない?」
早田さんの言葉に、大野くんはゆっくりと私たちを見回す。
「すみません、これでも愛想よくしてるつもりです。結構気を遣ってますよ」
物怖じしない貫禄っぷりに感心する。私が入社したての頃は、もっと先輩にペコペコしてたっけ。
「堂々としてるわ~」
祥子さんも感心したように呟き、私もそれに同調して頷いた。
「えっと、何か飲む?」
「じゃあビールを」
「はい、どうぞ」
私は空いている綺麗なグラスを大野くんに手渡すと、まだ残っているビール瓶を探して注いであげた。
「どうも」
淡々と受け答えする大野くんに、真希ちゃんがボソッと呟く。
「姫乃さんにお酌してもらって喜ばない男、初めて見た」
「はあ?」
「確かに。ほら見て、あっちのテーブルのおじさんたちは羨ましそうにしてるわよ」
祥子さんが指差す隣のテーブルでは、年配の男性陣がみんなこちらを見ている。
「さすが姫ちゃん」
「ちょっと、祥子さん、そんなわけないでしょう。からかわないでください」
何だか急に恥ずかしくなって、私は慌てて否定する。お酌くらいで羨ましがるとか、意味がわからない。きっとみんな、大野くんを見ていたと思うの。
「なるほど」
「ちょっと、大野くんも真に受けないの」
大野くんまで感心したように頷くので、私は居心地が悪い。
「姫ちゃんも早く結婚したらいいのに」
「えっ? いや、あの……」
「あ、彼氏仕事に忙しいんだっけ? 大変ねー」
「いや、だから……」
突然の祥子さんからの話題に、私は心臓が跳ねる。そういえば今日こそ“彼氏と別れた”って言おうと思っていたんだった。
今こそチャンスじゃない?